こいつは…重い

 さらにまさしに借りたYOSHII LOVINSONの「at the BLACK HOLE」聴いてみました。
 友人(故人)がイエモン好きでよくカラオケで歌っていたこともあり、イエモンに対するイメージはある程度持ってました。でまぁソロになってもその延長線って感じだと想像してたんですけど…。
 これは一言で言えば「歌」というより「詩」ですよね。歌詞を通してひたすら垂れ流される「吉井和哉」という人間の欠片。それはメッセージですらなく、ただただ心情を吐露するだけという感じでしょうか。その中身がまたひどく生々しくも重たく後ろ向きなものが多く、「これからだよね」という前向きなセリフにすら切なさを感じでしまう、そんな心の詩。例えるなら「鬱モードのオーケンからさらに笑いの要素を剥ぎ取った」感じ。自分の体験と照らし合わせて共感してしまった人はそれこそどっぷり浸かってしまいたくなるでしょうし、そうでなくてもこうまで赤裸々に「人間」を見せつけられると「他人の隠された部分を暴いてみたい」という黒い欲求が湧き上がってくるというか…。そんな直球歌詞で唯一遊び心が感じられるのは英語と日本語のダブルミーニングによる言葉遊びくらいですかね。それですら詩の内容の前には霞むわけですが。
 で、そんな強烈な詩をあの吉井ボイスで歌われるともう反則なわけですよ。イエモン時代、一見正統派ロックの中ですらやるせなさ、切なさを歌詞に盛り込みしっかり歌い上げたこの人がリミッター解除して好き勝手やってるんですから、歌詞の内容がダイレクトに叩き込まれる。しかもそれが重い…爽快感とは無縁ですが、聴いた後にずっしり残るモンがあるのは確かです。
 そんなこの詩にとって楽曲は言っちゃなんですけどオマケに過ぎない感じがします。どんなに切なげバラードだろうがアップテンポなロックだろうが、どんなスタイルからでも繰り出されるのは常に吉井パンチなわけですから、サウンドの印象が相対的に希薄になってしまうというのが一点。あとこのアルバムでは本当に吉井が好き勝手にやったのでしょうか…正直「売る気あるのか?」という位アルバム構成としても楽曲にしてもメリハリがあんまない感じがします。ポップな曲調でもっと盛り上げられるだろう曲も敢えてそうしてないんじゃないか?と思う程。ぶっちゃけこのアルバムの曲でライブやったらどこで盛り上がるんだろ?と素朴な質問をまさしにぶつけたところ「Fallin'Fallin'」や「Black Cock's Horse」でノリノリに踊るそうな…。前者もアレだが後者はどうよと…。
 勝手に結論づけるなら、「サウンドで何でもかんでもヘヴィに仕立てた」ミッシェルに対して本作は「詩で何でもかんでも『人間吉井和哉』に仕立てた」感じですかね。だから曲として印象に残ったのを挙げろといわれると意外と難しい…。明るい曲調で比較的前向きなはずなのに切なさが漂いまくる「Californian Rider」、切ないメロディと最後の一言かクる「Side by Side」、セミダブル溺死体のインパクトが強い「Fallin'Fallin'」、ちょっと古臭いメロディで綴られる切なすぎる詩「Sweet Candy Rain」ってトコでしょうか。
 で、正直コレを人に薦めるか、というと…どうでしょう?音楽聴いてストレス解消したい、スッキリしたいという人にはとてつもなく向かないと思います。でも聴いたら何だかハマってしまう、そういう魅力…というか魔力に溢れた名盤。俺的には…好き嫌いでは語れないです。ぶっちゃけ怖い。自分の中の知らない何かを引っ張り出されるというか心がかき回されるというか…。純粋な「音楽」としてみたら正直普通だって思うんですけどね…。